「無題」


ふと見上げると夜でした。
まくらい夜の空でした。
ただ星もないやみでした。
ときに見えるのは月でした。
しろくまぶしい月でした。

ひろがる墨のすきまから、
月はつめたく覗くのです。
月は出たかと思うとかくれ、
それでも常にしろいのです。
にじむ油濁のやみ色に、
月はまざりはしないのです。

きょうの空はやみなのでしょうか。
きょうの夜は月なのでしょうか。
きょうの世界はくろいのでしょうか。
きょうの世界はしろいのでしょうか。

ふと見上げるとやみでした。
気づかせたのは月でした。