『硝子の植物園』 生温い粘着質の風が狭い世界を満たし 覆い被さる緑色を何倍にも膨れ上がらせる 重力に引かれて落ちていく水たちが 世界の七分の一を海に変える 緑色と海のわずかな狭間に蠢くのは獣 逆立つ白と黒を重ねて腐り続ける 甘い腐臭が咽を塞いで呼吸を止めて 爛れた咆哮は吸い込まれて消える 絶命に似た命の絶頂を映し 海の十三分の一が赤い粘液に変わる 湿った排他的な声が暗い狭間を震わせ 押し迫る終末を足元まで呼び寄せる 引力に誘われて流れ出す蜜色が 視界の半分を幻覚に変える 終末の足音をひそかに手繰り続けるのは獣 薄く覆う殻を突き破り境界を壊す 不可視の糸に固く繋がれ目を塞いで 澱んだ空気を手探りで掻き進む 妄想に似た獣の妄執を辿り 幻覚の四分の三が白い残像に変わる 全てを垣間見る小さな鶫が その時ひとり血を吐いて死んだ |